”アレイと比べる”話

 転写産物の網羅的発現プロファイル取る方法といえば、一般的にはDNAマイクロアレイであり、また、サンプル間で発現量の異なる転写産物を得る方法としては、ディファレンシャル・ディスプレーやサブトラクションがあるようです。
 初期のころ(2002年ごろから始めてます)は、HiCEPの営業にいくと、DNAマイクロアレイとどう違うのか、比べてどのような点がどのように優れているのか という質問を必ず受けました。(最近は、なぜだか、この手の質問をされることが少くなってきました。)そのころ、アレイとの比較データを出していただいておりましたが、”発現変化率の高いものから20個ならべると”2割くらいは同じ遺伝子が入ってくるのですが、それ以外はアレイとまったく異なる遺伝子がリストアップされてきました。(つまり論文にも載っていない遺伝子が8割くらい出てくるということです。)そのころ、この話をしたとき、アレイと結果が異なるわけですから、”HiCEPの結果は信頼できますよ”というデータにはならないわけで、つまり、”ほとんどアレイと同じ結果ですが、その中にも、アレイでは拾えない遺伝子もいくつかありました”ということならいいのですが、”アレイで拾えない遺伝子ばかり拾えます”という営業トークは、その当時では、HiCEPの優位性を印象づけるトークにはならなかったということです。それどころか”妖しい技術”という評価になるわけです。
 Dry担当のわたしから見たとき、アレイと比べる違和感がありました。比べちゃいけないのではないかと漠然と思っていました。得られている情報がまったく違うのではないか、決定的に性能として違うなにかがあるのではないか...

HiCEPは普通に変動しない転写産物のプロファイリングが取れる

 おそらく、素人の私から見ると、HiCEPは”普通”なのです。プロファリングというのは、HiCEPで取ったデータのようなものを指すのであろうと思うわけです。変動しないものも、変動するものも普通に見えるのです。取り立てて、HiCEPは良いっていうほどのこともないのではと思うわけです。

  • 検出されたシグナルはすべて評価対象となる

 ヒトやマウスなどの哺乳動物ですと、組織や細胞にHiCEPを使って、約2万から3万種類のシグナルを得ることができますが、その約80%から約98%のシグナルが発現量の増減の評価対象となります。そのことは、”変化しない転写物”を見ることもできるということになります。

  • Global Normalization

 HiCEPにおいて、サンプル間比較を行う場合、シグナルの強度を補正するための方法として、”比較するサンプル間のピークはほとんど変動していない”という前提で、サンプル間の対応シグナルすべての強度が一番良く一致する補正係数を求めるという方法を採用しています。(RNAが上手くとれていて夾雑物が少なければ、HiCEPの手技を始めるときのRNAのスタート濃度を合わせておくと、Normalizationが必要ないほど波形は一致します。)

  • その組織のプロファイリングが見えます

 HiCEPで”発現変動率を検出する場合”はプロファイリングがあまり変わらない試料を比較することを前提にするわけで、”変わらない”シグナル群の強度パターンは、その試料のベースとなるプロファイリングということになります。つまり、白血球は、どんな状況でも白血球が白血球であるための発現パターンがあり、筋肉は筋肉の発現パターンがあって、それをHiCEPは捉えることができます。

  • 低シグナルから高シグナルまで再現性が高い=誤差が変わらない


図1:同じRNAで、別々に実施したHiCEPの波形チャートを4枚重ねています。
 図1は、酵母RNAについて、HiCEPを行なって取得したプロファリング(キャピラリー電気泳動波形)の一部(256分の1)です。この図の波形チャートは、同じRNAについて4回別々にHiCEPを行なって得られたものを重ねています。ほぼピッタリ重なっています。

図2:拡大しても良く重なっています。
波形の一部を拡大したものが図2です。これも良く一致しています。このことは、低シグナルでも高い再現性が得られているということです。おそらく、この図2の強度が低い転写物は、10細胞に1コピー、あるいはもっと低発現の転写産物である可能もあります。そのような低発現の転写産物までも再現性良く測定できることが、少々状況が変化しても”発現変動しない多くのシグナル群=その組織での発現パターン”を正確に検出できる必須条件であると考えています。

  • HiCEPのLook&Feelの特徴は
    • 変動しない多くのシグナル群をベースにして、変動する転写物を特定していくという点が、アレイとは決定的に違うのではないかと思っています。