NTTの研究所の仕事をしていたときの話

 先日、会社のみんなと会議スペースでビールを飲んでいるときに、会社設立当社から約12年間携わったNTTの研究所の仕事の思い出話になりました。このシステム、開発開始から25年以上たっているのにもかかわらず、いまでも利用されています。いまでいうところのクライアント・サーバ型アプリケーション開発用フレームワークのようなものでした。最初は、メモリ128kbytesで8インチの外付けフロッピーディスクがついたNECのPC9801で開発していました。PCとセンターのコンピュータマシン(DIPSという汎用機で、富士通・日立・NEC・OKIがそれぞれそれ開発していました)との通信は、アナログ電話回線ダイアルアップの300bpで、GもMもKもついていないという速度です。その後、このシステムは、サーバーサイドスクリプト機能を持ったWebServerに発展し、現在では、Linux版が動作しています。昔話は、別の機会に譲るとして。。。

NTTは技術開発の実務を外部委託し民間を育てる

 この約12年間の開発のなかで、ひとつ不思議だなと思っていることがありました。NTTの研究所の担当者の方は、情報系を出た方々で、プログラムを作る能力を十分持っておられるのにもかかわらず、自らプログラムを開発する方がおられなかったのです。(ソフトウエア研究所という名称だったのに)それについて、質問してみたら、”NTTがソフトウエアを開発する場合、原則として、すべて外注するという方針です”という答えがかえってきました。NTTは、自らの電信電話業務を行うなかで、必要とする技術の開発を外部の民間会社に委託することで、民間企業への技術蓄積と民間企業の育成、さらには、新たな産業を育て発展させるというミッションを持っていたということでしょうか。これは、約10年前のことなので、いまでもそうなのかどうかわかりませんが、確かに、我々はPC上のアプリケーションの開発やクライアント/サーバのためのミドルウエアの開発、さらには、Webserverの開発という、おそらくあのころ日本ではだれもやったことがないであろう仕事を”お金をもらって継続的に”できたことは(しかも利益あげてもいいわけです)我々にとっては、その後のいろいろな仕事をしていく上で、大きな財産となりました。現在のバイオテクノロジー分野での仕事にも、そのときに学んだことが間違えなく役に立っています。

バイオテクノロジーは、どう民間を育てたか?

 バイオテクノロジー分野、特にバイオインフォマティクスについては、ここ10年間で、民間を育てることはできたのでしょうか?・・・産業が育つどころか、大手の会社はみな引き気味という状態なのはみなさんの知るところです。それは、なぜでしょう?あれだけの予算が落ちていたのに・・・なぜ民間は育たなかったのか?

バイオインフォマティクスは”職業”であるという認識はあるか?

 バイオインフォマティクスは、”新しい研究領域”という位置づけはあっても、”新しい職域”という認識は関係者のみなさんにないのかもしれませんね。バイオインフォマティクスを”職業”とする我々は、プログラムを作ることが仕事で、当たり前の話ですが、”仕事はひとの役に立つってなんぼ”で、それが労働のモチベーションになります。しかしながら、バイオインフォマティクスのニーズの対応を研究者の方が行うとしたらどうでしょう。研究者の方々は、根底にはひとの役に立つという気持ちをお持ちであることは間違いなと思いますが、第一義的には研究成果をあげることがミッションで、それが行動規範となります。となると「他の研究者の研究目的を達成するために、ソフトウエアをインストールし、公共DBをダウンロードし、ツール用にフォーマット変換して、検索の条件を調整し、出力を研究者の目的に合うように変換し、研究者とディスカッションし協力してtry&errorを繰り替えす」ような仕事は継続して行うことは、研究者のモチベーションでは難しいと思います。しかも、ソリューションを提供するためには、技術知識としてカバーしなければならない範囲も広く(良く知っている手法だけで解決していくのは難しい)、時にはIT業界から必要なリソースを探すことまでやらなければならない場合があります。
 もちろん、実験研究者の方が、バイオインフォマティクスについて勉強していただくことは絶対に必要で、なぜならば、どういうデータ解析を行うかが、研究そのもののアドバンテージにつながり、それを考えていただくのは研究者の役割だからです。
 また、バイオインフォマティクスそのものの研究も重要で、我々が日ごろ利用するバイオ系のツールのほとんどが、アカデミックの研究者が開発し論文になったものです。ですので、新たなツールを開発する研究はどんどん進めていただきたいと考えております。(NTTの仕事をしていたときの発注者は、NTTの研究員であったのと同じです。)
 しかしながら、バイオインフォマティクスにかかわる第3の職域、つまり、各生物学者の研究目的達成するための”実作業”を高いモチベーションを持って実行する人々が必要であるという認識は、なかなか広まっていないのかもしれません。IT分野では当たり前なのですが・・・

NTTと同じ方式はとれないのか?

 NTT研究所が昔取った方法と同じように、独立行政法人や独立学校法人などの税金で動かしている機関において、バイオテクノロジーに関するソフトウエアの開発やソフトウエアによるデータ解析を行う場合、必ず民間の外部業者を使うということにはできないのでしょうかね?ポスドク雇用が必要なくなるという懸念もありますが、バイオインフォマティクスポスドクは、外部業者と協力して研究を進めるスキルを身につける良い機会でもあります。

 おまけにもうひとつ、派遣出向できている方に、プログラムを作らせることもNTT研究所は行っておりませんでした。派遣・出向のひとたちはいましたが、開発業務ではなく、コンピュータのオペレーションや間接業務に従事していました。