広島で開かれた医療・診断機器開発研究交流会に出席してきました。

この交流会は、「ちゅうごく産業創造センター」と「中国地域バイオ産業推進協議会」及び「中国地域産業クラスターフォーラム」の協賛で開かれたもので、今回のテーマは、医工連携がテーマのようでした。広島大学岡山大学の先生が数名お話をされました。わたしとしては、面白く、勉強になる、新しいお話を聞かせていただき、たいへん勉強になりました。少しだけ、先生方のお話をご紹介させていただきます。

医工連携について

 医工連携という言葉は、わたしはじめて聞いた言葉でした。しかし、確かに、医療現場には機械がいっぱい入っていますので、医学への工学の貢献度は大きいのかもしれません。一方、わざわざ、医工連携という言葉がかかげられるということは、いまひとつ、これがうまくいっていないということなのかもしれません。
 医工連携のうまくいっている例として、広島大学大学院工学研究科の辻敏夫先生がお話をされました。筋肉の電流を使って、ロボットの手を動かすなど、入力デバイスのひとつとしての「筋電インタフェース」技術や、パーキンソン病の診断を行うための指タップ計測装置、血管の硬さをモニタリングして、緊張の度合いを計測する技術など、人の体の変化をとらえて機械への信号に変えるという技術の発表をされました。
 印象に残ったのは、「ニーズやシーズは、お医者さんからいただいている」ので、対等な立場というよりは、工学系の研究者は、アイデアをもらう立場にあるというお考えでした。
 このお考えは、バイオテクノロジーの世界で、コンピュータのプログラムを作る仕事をしている我々のような職業にも同じことがいえます。特に、ソフトウエアは、ニーズがないと物が作れません。アルゴリズムの開発なども、必要性があるから研究ができます。工学系のご研究も、やはり、ニーズがあってテーマが生まれるということなんだなと思いました。
 その点、生物学は、医学や食品、農業といった分野に向かっては、ニーズに対応したテーマが想定できるのですが、それ以外にも、生命のしくむに迫る研究も必要なわけで、基本的な物事の仕組みを解き明かす研究ができる分野なのだと思いました。つまり、究極の基礎研究分野のひとつなのかもしれません。

口の中に抗生物視耐性の怖い菌がいっぱいる

 次の先生は、岡山大学大学院医歯薬額総合研究科の高柴正悟先生で、口腔内に恐ろしい細菌がいっぱいいて、寝たきりの老人の方の口腔を綺麗にする作業をするといっぱい菌が飛び散っているというお話をされました。先生は、栄研化学が開発してLAMP法*1で、メシチリン耐性遺伝子や黄色ブドウ球菌特異遺伝子を迅速に検出する方法を考案されて、持ち運び可能な機械を作って欲しいということで、プレゼンされたようです。栄研化学が取り組めばいいのにと思うのですが、栄研化学さんいまいちのってこないのでしょうかね?

ペプチド・ベクターすごいです

 岡山大学大学院医歯薬額総合研究科の近藤栄作先生のお話は、わたしにとっては、たいへんおもしろいお話でした。これは、細胞に取り込まれやすいペプチドと蛋白質と疎水結合しやすいペプチドを結合した物質をベクターとして、細胞内に、目的の蛋白質を導入するという仕組みです。ベクターにのせる方法は、”まぜるだけ”で、核内までとどくそうで、ベクターそのものの毒性も低いようです。いますぐにでも、臨床応用したい技術なのですが、そのあたりはどうなっているのでしょうか。まずは、すでにあるペプチドワクチンをのせてみて、少ない量で効果がでれば、ドラッグデリバリーシステムとして、世に出すことができるのではないでしょうか。

検便で大腸がんを診断する

 岡山大学大学院医歯薬額総合研究科の松原先生は、便にこぼれ落ちてくる癌組織のDNAを増幅して検査するという方法を提唱されていました。もう、実用化まで、道のりはながくないようです。
 ショックだったのは、検便で血がまじっているかどうかの検査や腸内の内視鏡などで、十分に検査できるわけではないといお話でした。大腸がんの診断方法もまだまだ良いものがないのですねぇー。

アルツハイマーを末梢血で診断する

 広島大学原爆放射千医科学研究所の川上秀史先生は、いわば身内なのです。なぜならば、HiCEP法を使って、アルツハイマーを末梢血で診断できる診断マーカを探索しようというご研究で、メッセンジャー・スケープで一緒に取り組みをさせていただいています。数年前から計画して、なんとか予算を確保しようと考えていたのですが、末梢血で頭の病気が見えるのか?という壁をなかなかこえられず、ここにきてやっと自力でデータを出すことができるようになってきました。日本では、大日本住友製薬アルツハイマー家系の線維芽細胞(皮膚の細胞)で、診断マーカー候補をリストアップして特許を出しているようです。また、新潟大学の那波先生が、統合失調症を末梢血のRNAで診断するプロジェクトをJSTで行っておられます。世界でみると、当然のことながら、”疾病箇所とは違う組織で診断する”ということに取り組んでいる研究者はたくさんおられます。しかし、みなさんマイクロアレイをお使いなので、そこをHiCEPでやるとことにアドバンテージがあるわけです。
 ところで、アルツハイマーの確定診断する方法は、まだないようですね。川上先生のお話ですと、アルツハイマーに似たほかの病気ではないか という疑いをはらしていって、最後に、じゃアルツハイマーだな という診断なんだそうです。良い診断薬を作ることめざして、がんばりましょう。

マイクロアレイのデータ解析

 最後は、岡山大学大学院自然科学研究科の妹尾昌治先生の次世代バイオマーカー研究会発足のお話とそれにむけて、バイオマーカー探索の方法として、データ解析の重要性をお話されました。まさに、わたしも、今、メッセンジャー・スケープでバイオマーカー探索をやっていて、網羅的なHiCEPの発現解析データから、どうやってマーカー候補をピックアップするかというところで、いろいろと研究しています。何万という遺伝子のデータを人の目で見るというのは、至難の技ですからね。

しかし、たまには、でかけていっていろいろな先生のお話を聞くのは、刺激的で楽しかったです。交流会を開かれた関係者にみなさまの感謝!!

*1:LAMP法は、遺伝子配列を増幅して検査をするという意味では、サーマルサイクラーがいらずお手軽に増幅できるので、おそらく遺伝子検査の基本的な手法のひとつになると思います。