転写産物の発現と細胞間の相互作用に関する妄想

 シングルセルに関する発現解析が進む中、HiCEPの測定結果を日々見ていると、細胞と組織と発現プロファイルについて妄想が大きくふくらんでおります。そこで、ここに書き留めておくことにしました。
 HiCEP(Hign Coverage Expression Profiling)法は、低発現の転写産物から高発現のものまで、その発現量をほぼ同じ程度の誤差で観察することができる、とてもすぐれた網羅的発現解析手法です。ひらたくいうと、ほぼすべての転写物を”正確に”プロファイリングできる手法です。それについては、本ブログで以前に書きました。”アレイと比べる”話 - 転写産物をクラスタリングして見えてくるもの - 転写配列旅日記そちらを参考にしてください。また、HiCEP法の詳細はこちら http://bit.ly/NjbQTj
 このHiCEP法は、PCRで増幅して、キャピラリーで電気泳動して波形を得、ひとつのピークの蛍光強度が1転写産物の発現量に相当する手法です。しかしながら、PCRを使っているため測定された1転写産物の蛍光強度は、実際の発現量を正しく表したものではありません。しかし、HiCEP法で得ることができるピークの強度が発現量を反映しているという前提で妄想してみました。

低発現転写物の発現転写産物全体に対する割合に関する妄想

 ヒトの末梢血(単核球)にHiCEPを実施すると約3万のピークを得ることができます。ひとつの検体で見ると蛍光強度を持つピーク数(蛍光強度が50以上)は約2万5千、その中で、極低発現の転写物・蛍光強度200以下のピーク数が約1万3千、低発現の転写物・蛍光強度が1000以下のピーク数が約2万、蛍光強度1000以上のピーク数は約5千という結果となりました。

ピーク数 割合
総ピーク数 約3万5千 -
1サンプルのピーク数 約2万5千 100%
蛍光強度200以下のピーク数 約1万 52%
蛍光強度1000以下のピーク数 約2万 80%
蛍光強度1000以上のピーク数 約5千 20%

つまり、1サンプルに検出されている約2万5千の転写産物の内、80%以上は低発現転写物であり、さらにその中の50%以上は極低発現転写物であると妄想できます。

極低発現転写物とはどの程度低発現なのか?

 HiCEP法の測定法で1細胞中mRNA何コピーまで検出できるかを検討するために、試料にmRNAを濃度を変えながら混入させて、HiCEPを行ったところ、10細胞に1コピーで蛍光強度約1000程度あることがわかりました。もちろん、PCR効率がフラグメントによってかわるので、これを基準に考えることができないのはわかっているのですが、そこをあえて目をつむって妄想するならば、HiCEPは、10細胞に1コピーにとどまらず、100細胞に1コピーしかない転写産物を検出して、さらに、それが2倍3倍と増加していく様子を網羅的にとらえることができているということになります。

極低発現の転写産物が増加するというこは?

 100細胞に1コピーしか存在しないmRNAが2倍に増加するということは、ひとつの細胞の中で、もう一本mRNAが転写されて現れたという解釈もできますが、そのmRNAを1コピー持っている細胞の数が2倍になったも考えられます。つまり、1細胞内の反応でmRNAのコピー数が増えているのではなく、細胞間の相互作用の中で組織として転写産物が増えているという解釈もなりたつのではないかと妄想しています。

組織はまさに組織的?

 となると、一見均一に見える組織細胞群ではあるが、実は、細胞ごとに別々の役割をになったヘテロな細胞集団ではないか? それはまさに、個別の役割を持った多数の社員が組織化されて企業活動を行う会社と同様、個々の別の役割を持った細胞が多数集まって組織化されたものが生体内の”組織”ということになるのではないかと妄想しています。

MidnightBioTV、4月22日(火)20時から行います。テーマは、網羅的解析で得られた測定結果を、バイオインフォマティクスの専門家ないで、本物の候補まで持っていくツールをご紹介します。HiCEP法の網羅的解析における位置づけをお話します。